岸田文雄首相は11日、米議会上下両院合同会議で演説したが、冗談はうけたが中身は現状をのべるのみでレトリックに終始した。訪米にたずさわった方が「今回はお祭り」と言っていたがその通りであった。以下、本来ならやるべきであったことである。

 

第一に、今回は日米安保条約の改定まで踏み込むのではないかという期待があった。しかし、岸田総理は「尖閣に日米安保第5条に適応する」と述べるにとどめた。一見、日米同盟の強化とされるが当然のことであり、日本政府がアメリカにそのつど要請し、大統領は繰り返しリアシュアーしてきたことである。今さらという印象である。それよりも、尖閣有事の際には米軍が「いつ」かけつけてくれるのか、「どのように」関与するのかをただすべきである。ウクライナ戦争ではどうなのか。米軍は軍事的には直接関与せずに代理戦争を行っている。米軍は自衛隊とともに初戦から戦う保障が欲しい。

 

第二に岸田総理は、「日本はアメリカとともある」として「米国のグローバル・パートナー」と定義し、日本はアメリカとともに国際秩序を守る決意を表明した。「日本はかつて米国の地域パートナーだったが、今やグローバルなパートナーとなった」と強調した。このことに関して、昔ならば日本の国会で「極東条項」(日米安全保障条約第6条:米軍の日本駐留の目的を極東の平和維持に限定する条項。 日米安全保障条約第6条に、極東における国際の平和および安全の維持に寄与するため、米軍は日本国内の施設および区域を使用できると定めている)はどうなったと天地をひっくり返すような論議になるはずだが、その存在を知る国会議員もいなくなったと見える。無論、湾岸戦争やウクライナ戦争ことに「極東条項」は拡大され、日米安保はグローバルに展開するという暗黙の了解ができてしまっている。つまり、日米安全保障条約の改定をせねば、条約そのものの意味がなくなることになり、今回の日米共同宣言では真正面からそれを論じるべきであった

 

第三に岸田総理は、名指しで中国、ロシア、北朝鮮の脅威を述べた。日本は率先して渦中の栗を拾っているー、これが他国からの評価であろう。アメリカは太平洋をはさみ、地球の裏側の日本に米本土を守るたまに在日米軍を展開している。地政学的にこれら三か国は日本の隣国であり、ケンカを真正面から吹っ掛けているようなものだ。韓国もフィリピンも米国との関係は重視しながらバランスのとれた外交を展開している。隣国とは仲良く、脅威をへらす外交的努力が必要である。軍事的なヘッジ(抑止力)は防衛三文書を始め、防衛費の2%増でカバーしているのであり、今後は外交力を使わねばならない。

 

第四に、ウクライナ支援をのべたが米議会の反応はきっちりと二分された。現在のバイデン率いる民主党は大喝采、ウクライナ支援はやめるべきだとする共和党はしらけムード。大統領選挙の真っただ中で、バイデンの民主党のみに焦点を絞った演説をした岸田総理。トランプ再選の可能性が高まっているこの段階で、思い切った発言をしたものだと思う。来年の1月からトランプが大統領に再選された場合、日米同盟軽視に再び舵をきられる可能性も高い。

 

第五に、日本の首相が米議会上下両院合同会議で演説するのは2015年の安倍晋三元首相以来、9年ぶりで2人目となる。安倍総理は、「戦後政治の総決算」をはかり日米同盟があらたなフェーズにいったことを宣言した。そして、安倍演説は第2次世界大戦への「痛切な反省」に言及しつつ、集団的自衛権行使容認を含む安保法制制定への決意を語り事実それを実行した。

 

今回の岸田総理は、日米同盟は「次の時代に入る」と演説の狙いを周囲にこう語り、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額や敵基地攻撃能力保有を挙げ、「私自身、日米同盟を一層強固なものにするために、先頭に立って取り組んできた」と強調した。しかし、繰り返しになるが、「もしトラ」(トランプ大統領)の場合、「はしごが外される」(アメリカのシンクタンク研究員)可能性があり、むしろそれを考慮すべきではなかったのか。

 

首相は周囲に「米国にすべてを押しつけない。日本も一緒に役割を果たす。だから米国にインド太平洋地域にしっかり関与してくれ、ということだ」と語り、演説で日本が米国の負担を積極的に引き受けていく決意を示す理由を明かした。ただし、日本の政権トップが米政界に対して国際秩序の「守り手」として公式に名乗りを上げた以上、今後安保をめぐる米側の要求を日本が断ることが極めて難しくなった。「もしトラ」に対応できる日本の指導者の誕生を望みたい。