イスラエル軍とハマスのガザ戦争が〝第5次中東戦争〟となる地政学上のリスクが最高潮へ達しようとしている。イスラエルがイラン要人の暗殺を開始し、それに対してイラン側も報復を示唆している。イスラエルのネタニアフ首相は「ハマス殲滅」まで手を緩めない。ハマスのガザ代表のシンワル氏はこのほど、軍事衝突後初めてメッセージを出し「絶対に降伏しない」と徹底抗戦を呼び掛けた。

 

 いうまでもなく、中東ではイスラエルとイランの宿敵同士の根深い歴史的な争いがあり、イスラエルには同盟国のアメリカが、イランには同盟国のロシアがついている。

 

 アメリカは2020年にドローン攻撃でイランの英雄ソレイマニ将軍を暗殺した。今度は、イスラエルがソレマニ将軍の親友であるイランの革命防衛隊のムサビ将軍を昨年12月25日のクリスマスの日に暗殺した。ムサビは30年間シリアに滞在するイランからヒズボラ(レバノンのシーア派組織)へ軍事援助を行うシリア駐留軍のトップであった。

 

 さらにイスラエルは1月2日、ハマスの最高幹部のサレハ・アルーリをレバノンの首都ベイルートでドローン攻撃で殺した。アル―リはハマス随一の軍事戦略家で、ヒズボラとの連絡係という重要な役割を担っていた。

 

 これは、ヒズボラならびにイランに対する戦線布告に等しい。ヒズボラの指導者ナスララ師は「戦争を恐れない」と報復を表明。また、イランの最高指導者ハメネイ師も革命防衛隊や軍に報復することを承認した。ソレイマニ将軍が暗殺された際にも同師が報復を許可し、その後イラクの米軍基地がイランの弾道ミサイル攻撃を受けて米兵約100人が負傷したことは記憶に新しい。

 

 イスラエルは地政学的にヨルダン、シリア、イラン、イエメンと四方から攻撃を受けている。そした核保有国の軍事大国であるイスラエルはハマス殲滅まで徹底抗戦の手を緩めないだろう。

 

 今、その導火線に火がついた。今後、アメリカはウクライナと中東という軍事的2正面作戦を強いられる。力の真空が台湾海峡に生まれないことを望みたい。