4 相対性理論とビッグバン宇宙論(2)

 

② ビッグバン理論

 アインシュタインの重力方程式を、アレクサンドル・フリードマン(1888〜1925)というロシア人が解いた(1924発表)。彼の解によると、宇宙は静的か、膨張するか、収縮するかのいずれかであった(0、正、負のいずれか。フリードマンモデル)。ここから、ビッグバン宇宙論が生まれる。

 エドウィン・ハッブル(1889〜1953)の天体観測によって、宇宙が猛スピードで膨張していることが判明した(1929公表)。ベルギー人の物理学者ジョルジュ・ルメートル(1894〜1616)は、ハッブルの発見に先立って膨張宇宙論を主張していた(1927発表)。彼によれば、宇宙はある時に誕生し、以後膨張して現在の姿になった。

 ロシアからアメリカへ渡ったジョージ・ガモフが、ラルフ・アルファーと共同で最初のビッグバン宇宙論を発表(1948)。宇宙誕生の直後から、水素、ヘリウムなどの軽い元素が生まれる理論を構築し、ルメートルの宇宙膨張論を後押しした。

 ビッグバン宇宙論の決定的証拠となったのは、宇宙背景放射の発見である(1965)。これは、宇宙の全方向からほぼ等方的に観測される、絶対温度3Kのマイクロ波である。全方向から等しく観測されるため、このマイクロ波は「宇宙の大爆発後、今日までかかって冷えた波である」とされた。以上が、"簡単な宇宙の話"で必ず紹介されるストーリーである。

 ビッグバンと宇宙背景放射を理解するには、大きな池に石を投げてみるといい。石が池の水面に落ちたときが”ビッグバン”である。石は水中に沈むが、水面は全方向へ波紋が広がっていくだろう。波紋は、同じ大きさで同じスピードで、360度に広がっていく。この波紋が、宇宙背景放射である。

 

②‐1 理論に空いた”穴”

 a 宇宙の大規模構造と空白

  ところがビッグバン理論は、1980年代に早くも危機を迎える。宇宙観測の技術が向上したせいで、宇宙にはある個所に星(=銀河)が密集していることがわかったのだ。これを、”宇宙の大規模構造”と呼ぶ。

 続いて、宇宙はある個所に星が密集する一方で、何もない”すっからかんの空間”もあることもわかった。なんと、約一億光年も星一つない空白だそうだ。ちなみに、私たちが住む銀河系の大きさは、10万光年である。

 先ほどの、池の波紋のたとえを思い出してほしい。”波紋は、同じ大きさで同じスピードで、360度に広がっていく”。その証拠が、宇宙背景放射である。ゆえに、星も銀河も、宇宙に均等に広がっているはずなのだ。これは矛盾である。

 

 b 宇宙の重力分布

 これだけは済まなかった。宇宙は、星が足りないことが分かってきた。正確には、星の重力が足りないのだ。アインシュタインの重力方程式が正しいなら、宇宙は現在の膨張スピードに釣り合っているはずである。もっと正確に言うと、

 

 宇宙全体の星の重さ + 膨張スピード = アインシュタインの重力方程式

 

となるはずである。

 

 ところが、観測されている星の重さが、圧倒的に足りない。星の重力は、理論上必要な数値の約5%だそうだ。これも、大きな問題である。