夜明けの空は不気味だが待ち遠しい瞬間でもある。
不安と希望の境目にいるようで。
どこを見渡しても頼りになるものはない。
目指すべきものがないのだ。
今まで何度となく航海を行ってきたが夜明けの空を見る瞬間は未だに緊張してしまうものだ。
「船長。」
黙ったまま目線だけ動かす。シーラがホットコーヒーを差し出して来た。
「何だ、もう起きたのか。」
「いや・・呑気に寝てなんかいられないですよ。ようやくたどり着くってのに。」
50人以上いた乗組員も今や私とシーラだけになってしまった。
燃料も食料もついに昨日底をついてしまった。
まさかこんな過酷で、残酷な航海になるなんていったい誰が想像しただろう。
無言でシーラの淹れたコーヒーをもらうと私はゆっくりと飲み込んだ。
「すまんが少し見張りを交代してくれるか。」
「はい。そのつもりで来ましたから。」
私はシーラの肩を軽く叩くとそのまま船長室へと向かった。
1週間前に巨鮫獣に食われた右足が未だに痛む。
膝から下に埋め込んだ何かホッピングみたいなバネの大きいやつが「ギイギイ」と音を立てる。
シーラ。あとは頼んだぞ。
最後に見たシーラの背中はいつものように小さく、そしてまた今日もTシャツを反対に着ていた。