細田傳造の詩を「ちゃんと」(笑)読む | 山下晴代の「そして現代思想」

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そしてときどき、詩を書きます(笑)。

「細田傳造の詩を「ちゃんと」(笑)読む」

「ディック」(『納屋』1号)──「ミネ」なのかべつの人なのか。細田はテキトーなことを書いているふりして、ほんとうのことしか書かない。しかし意味は「隠されている」。宝さがしのおもしろさ。宝をさがしていくうちに、とんでもない世界に拉致されている。この詩は、細田お得意「下ネタである。海に流した「おしっこの一滴」の旅である。聞いたことのあるような単語やイミフの単語までいろいろ出てくる。読み手に同意を求めてくるわけではない。ナンタケット、といえば、捕鯨船が出発する島である。福島の処理水が海に流され、分析上は問題ないという「エビデンス」があるにもかかわらず、中国がいろいろ風評を流している。そして最後は内容に意味を与えず、「越冬つばめ」で終わる。
詩に転換される。

「ムササビ」(『納屋』1号)─細田は、まま見かける「詩人」のように絵空事のようなことは書かない。高層のオフィスビルに入るのも、氏の日常であろう。しかし、紀伊國屋の田辺茂一みたいにクサくない。実業家なれど、そのへんの変態ジジイのふりをしている。細田はこのフリを愛している。昆虫のセックスを、「交尾」とは表現しない。記憶のなかで父母の性交を思い浮かべ、透明化しようとひっちゃきにならない、どだいスケールがちがう。言葉を使って小さな物語を作ろうとしない。どの行を引いたろか、と思うが、どれも素早い速さで逃げていく。「ただひとつの地名でも詩になる」と、吉田健一は書いている。それに似たことをやっているのが細田傳造である。細田の詩は、読んで楽しめばいいのである。

「オフィスビルというところに入った/駅から五分/家賃については考えたくない」そうだろ、そうだろ(笑)。一句でけた。

 国立の富士見通りのマンション新築取り壊し(字余り、無季)。