『セント・オブ・ウーマン/夢の香り 』──絶滅危機の美しき映画 | 山下晴代の「そして現代思想」

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『セント・オブ・ウーマン/夢の香り 』(マーティン・ブレスト監督、1992年、原題『SCENT OF A WOMAN』)

 

全盲の退役軍人は女好きで、目は見えなくともその女の香りでその女を「見る」ことができる──。西欧の女性はたいていフレグランスを付けていて、そのフレグランスのチョイスがその女性の、人間性を表す──。

 

 公開当時リアルタイムで見て、印象に残ったのが、意外にも、最も魅力的な香りは、レストランで人を待っている若い女性の香りで、それは、香水の香りではなく、石けんだった。祖母がくれたというから、昔からある石けんなのだろう。そんな香りが、行きずりの若い女役の、ガブリエル・アンウォーから漂ってくる。退役軍人役のパチーノはその女の人間性を見抜き、付き添いアルバイト役の、クリス・オドネルと近づいていき、たまたま流れているタンゴについて彼女に聞くと、タンゴは習っていたが、今の彼が嫌いなのでやめてしまったという。そこで、「お嬢さん、私と踊りませんか?お教えしましょう」とパチーノは誘う。それを、クリスのチャーリーに見せる。このプレイボーイのオッサンの圧巻のタンゴ。それが記憶に残っていて、買ってあったDVDを見る時が来たようだ。

 うーーーん……記憶している以上の傑作であった。Yahoo!ブログでも、2000人以上が満点近くをつけている。

 人間として、いかにまっとうさを貫くか。人間として、いかに楽しむか。今、ほとんど忘れ去られているテーマが詰まり、どのシーンも端正に撮られている。クリス・オドネルの清純な風貌は、今は絶滅してしまったようにも思える。プレッピースクールに、金持ち階層ではないのに行っている苦学生の役を、押さえた演技で演じている。パチーノの、ド派手な初老男をうまく補佐しているのである。そして、パチーノは、マフィアではなく、こういう地味な役(キャラクターはエキセントリックだが)で7度目のノミネートでやっとアカデミー主演男優賞を取れたのは、彼にとってもよかったと思う。マーティン・ブレスト監督は寡作ながら、それゆえ巨匠として名を馳せてはいないが、スピルバーグ並みの能力と才能を持った監督と見た。