『ワールド・ウォーZ』──ヒーローの職業はUN(国連)の時代 | 山下晴代の「そして現代思想」

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そしてときどき、詩を書きます(笑)。

『ワールド・ウォーZ』マーク・フォースター監督

 これまでも「ゾンビ映画」はそれなりに見ていた。「オバタリアン」という言葉のもとになった、「バタリアン」しかり。しかし、なにか科学的な原因があって、ひとがゾンビ化したという内容ではなかったように思う。本作は、なるほど、俗に「ゾンビ映画」と呼ばれるものに属するかもしれないが、過去のゾンビものとは違って、今という時代を、警告も含めて写し取っていると思う。バイトの若者店員が、勤務先の冷蔵庫などに入って写真を写し、Twetter等に投稿して喜ぶ現象も、ある意味、脳みその「ゾンビ化」ということができる。つまり、そういう時代になってしまったのである。

 病死した牛の骨粉の混じったエサを与え、「共食い」させていた牛の脳みそが狂牛病に冒されたのもしかり。それが、われわれの「ワールド・ウォー」である。

 『セブン』で、血と傷が似合う美形を証明したブラピが、本作でも、汚れ、苦しむ。しかし、どこか安心して見ていられるのは、このヒーローのせいである。かつてのゾンビ映画に、このようなヒーローはいなかった。しかも、CIAがかっこいい時代は終わって、UN(国連)である。ブラピが、CIAの職員に、「あんたは誰だ?」と聞かれ、「UN」と答えるところは、さりげなくかっこいい。そして世界は、「とりあえず」このヒーローによって、救われる。