『俺は母ちゃんにいじめられてただ』 | kuminsi-doのブログ:笑って介護

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≪『俺は母ちゃんにいじめられてただ』≫ 

 

義母が施設に入所してから約2週間になる。 

どんな様子か見に行った。 

 

施設の面会室に通され私と夫は椅子に座り待っている。 

 

義母は施設の方に付き添われて入って来る。 

 

義母はしっかりと自分の足で歩き元気そうだ~ 

 

しかし義母はそこに立ったまま。 

表情は柔らかく、にこやかであるが、夫を見ても言葉がない。 

 

「息子さんたちが来てくださいましたよ」 

施設の方の呼びかけで義母は我に返ったのか??? 

 

「兄ちゃんだな」 

義母は歩み始め、私たちの方に来て夫の向かいの椅子に座る。 

 

「兄ちゃんだな、兄ちゃん」 

義母はしきりに夫を、子供の頃から呼んでいたように呼ぶ。 

 

「元気でいるかい?」 

夫は嬉しそうに優しく声を掛ける。 

「来てくれただな」 

義母はにこやかであるが、久しぶりに親子が対面する感動的な場面とはならなかった。 

 

母と子の2週間ぶりの対面ってこんなものか??? 

何かよそよそしいが。 

 

「来てくれるって分かっていれば、ご飯を用意しておいたに」 

義母はにこやかではあるが他人事のようにさらに話す。 

「まあ、子供は自由にしてあるでな、騒いでるだ。田んぼはあるが手伝いをさせないようにして、外で騒がせてるだ、だもんで・・・・・・」 

 

「そうかね」 

夫は会話に、にこやかに合槌を打つ。 

 

「おばあちゃん、この人は誰か分かる?」 

私は義母の話が途切れたところで聞いてみる。 

 

「おお分かってる。兄ちゃんだ。兄ちゃんだでな」 

義母はにこやかではあるが自分に言い聞かせるように繰り返す。 

 

「そうだ」 

夫は満足したように返事をする。 

 

「私は分かる」 

私はにこやかに優しく聞く。 

 

「姉さんは悪いな、知らねえだ」 

義母は考える様子もなく即座ににこやかに答える。 

 

「おれの嫁さんだでね」 

夫は優しく義母に言う。 

 

「悪いな、嫁さんとは一緒に暮らしたことが無くて、兄ちゃんとは一緒に暮してるもんで分かるが、姉さんは会ったことがねえだ。嫁さんは農家じゃねえもんで、畑をやらせねえように、わしが全部やってるだ。わしは生まれるっから農家の生まれだもんで、わしがやらにゃいかんだ、嫁さんは分からねえでな。わしがやってるだ、だもんでやってくれやとは言わねえだ。子供たちもわいわい騒いでいるもんで、だで自由にさせてるだ。わしは農家の生まれだもんで分かってるもんで、子供たちは・・・・・」 

義母はしきりに、頭に浮かぶ言葉をしゃべりまくる。 

 

「今、お風呂から出たところだって?」 

夫は話題を変える。 

 

私たちはこの部屋に通される前に、施設の方から「今、お風呂から出たばたりですよ」と聞いていた。 

 

「お風呂は入ってねえで、昼間っから入ることは無いでね、人が来てもいけねえし、仕事をしてるでね。入りゃしねえで。子供たちも騒いでるで、自由にさせてるで、畑をやれとは言わないでね。子供は自由にさせてるだ」 

やはり義母は今のことを全く覚えていなが、子供は気になっているらしい。 

 

しかし、この子供とは??? 

義母の子供である夫??? 

私たち夫婦の子供である孫??? 

誰だろう。 

 

夫も会話が弾まず困り果てる。 

 

沈黙・・・。 

 

「ま~、青い空だわね」 

突然、義母は窓の外を眺め声を上げる。 

 

「今日は天気がいいでね」 

私は義母に合わせる。 

私は2週間前まで一緒に暮らしていたが、忘れ去られた嫁さんの身、だが納得である。 

 

 

しかし、終始義母はにこやかで穏やかな様子を見ると体調も良く、居心地がいいようだ。 

良かった。良かった。 

 

所で。義父のことは何も言っていないが、思い出さないのかな??? 

 

 

そう言えば、今朝義父の施設に寄って来た。 

「お父さん、この間の夜中に『かあちゃん、かあちゃん』と呼んだんですよ。寂しくなったのかと思ったら『お腹が空いた、何か食べる物はあるか』と言ったようで、食べる物が欲しくて呼んだみたいですよ」と義父の施設の方に言われたことを思い出した。 

さらに「これは冗談なのか本当なのか分かりませんが『俺は母ちゃんにいじめられてただ』と言っていましたよ」と笑いながら言われた。 

結婚して、70年の時を超えて、別々の施設に入って、義父は自分の気持ちに気づいたのだろうか??? 

まんざら妄想や冗談でもなさそうだが??? 

 

 

実は、私は義父の入所している施設で、毎週1回ヨーガ療法のボランティアを30分ほどではあるがしている。 

そこで義父の何気ない日常や施設の雰囲気を味わってくるのが楽しみだが、丁度今朝、ボランティア活動に行ってこの話は聞いてきたのだった。 

 

 

「じゃ仕事があるから帰るよ」 

夫は立ち上がる。 

「また来いよ、その時はご飯を用意しとくから。今日は何にも作ってなくて悪かったな」 

義母はにこやかに答えながら立ちあがる。 

 

私と夫は手を振り車に乗り込んだ。 

 

「自分の家に居るつもりになっているなようだな、きっと施設が自分の家のように緒心地がいいんだな」 

夫は安堵したように穏やかに話す。 

「俺らが長い間、別に暮らしていていたのも良かったのかもしれない。だからこうやって顔を見て帰って行っても不思議に思わないんだよ」 

夫は過去の自分を振り返りしみじみと言う。 

 

私たちは夫の仕事の都合で家を離れ25年以上義理の両親と一緒に暮らさず、認知症が目立つようになってから同居を始めたが、夫にとって長男としてこれが気になっていたのだろか??? 

 

今、二人ともそれぞれの別の施設に入り穏やかに、静かに暮らしているのを見るとすべては良かったんだな~ 

 

 

でも、義父の『俺は母ちゃんにいじめられてただ』は気になるな~ 

 

一緒に暮らしていた頃、毎晩、夜中に義理の両親は大声で騒いでいた。 

夫は「夫婦のコミュニケーションだから大丈夫」と言っていた。 

そこで私たちは見に行ってあげなかった。 

 

あの時、義父は辛かったのかな??? 

私たちはそんな義父に手を差し伸べてあげればよかったのかな~ 

 

いやいや、義父は辛いと言ってはいない??? 

もしかすると、義母の居ないことが今、寂しくて誰かに声を掛けてもらいたかったのかな~ 

 

義母は義父のことを何も言っていなかったが、どうなんだろう???