«「わしは何時も邪魔だわ」 ≫
我が家のキッチンは広くない。
私が朝食を作っている後ろと食卓台との間がもっとも広いスペースである。
そこで夫は何時も義父に椅子の背もたれを持たせパンツを替える。
必ず義母は義父より早く出て来て、食卓台の上にある替えのパンツを持ってキッチンから出て行こうとする。
「おばあちゃん、それは持って行かないよ」
私が声を掛ける。
「なんでいけねえだ」
義母は不服そうである。
「おじいちゃんの替えのパンツだから」
「言わねえもんで分からねえだ。言っておいてくれれば、わしだって分かるだ」
義母はイライラしたように声を荒げる。
またまた、いつもの言い訳である。
私は義母からパンツを取り食卓台の上に置く。
義母はその間に義父のパンツを替えるために敷いてある。吸水シートを畳みだす。
「おばあちゃん、それは畳まないよ」
「邪魔になるで!」
義母は怒る。
「パンツを替える為に敷いてあるから。人の仕事の邪魔をしないよ」
私は義母を説得する。
義母から吸水シートを取り、再度椅子の下に敷く。
この吸水シートを敷いておくと、義父がパンツを替えている間に、おしっこ、ウンチをしても安心である。
義父は便が柔らかく、常に下痢なので、この吸水シートのお陰で何度も下痢のウンチが飛び散らずにすんでいる。
「言わねえもんでいけねえだ。言ってくれりゃ分かるだ」
義母はそう言いながら、今度は義父を立たせる椅子を食卓台に戻そうとする。
「椅子を片付けないで」
「なんでいけねえだ、邪魔じゃねえか」
義母は椅子を怒って動かす。
「おじいちゃんのパンツを替えるために出してあるから、人の仕事の邪魔をしないよ」
「わしは、もともと邪魔だで」
義母は大声を上げる。
え????
やっと義父が入って来る。
吸水シートの上に立ち椅子の背もたれを持ちパンツを替える体制に入る。
夫がパンツを替え始める。
義母はその脇をうろうろ歩き回る。
「おばあちゃんそこをどいて、おじいちゃんのパンツを替えるのに邪魔になるから」
私が義母にお願いする。
「そうだ、わしはいつも邪魔だでね。いねえほうがいいだ!」
義母は大きな声で怒る。
え???
「そこは邪魔になるから行かないよ」
私は今度、義母が義父にスリッパをはかそうとするのを止める。
「わしは、邪魔な存在だで!」
義母は怒る。
義父のパンツを替えるのはなかなか難しい。
常に下痢のウンチが入っていて、それを服、足につかないようにして脱がせるのだ。
上手く足がパンツから出たと思っても、義父は足元を見えていないので、そのまま足を下ろし、ウンチを踏んでしまうことがしばしばある。
また、上手くパンツを脱がしても、下痢が入ったパンツをビニール袋に上手く入れないとこぼれてあたりが臭くなる。
そこで義父のパンツを替えるときは常に緊張し最新の注意を払う必要があるのである。
所がうろうるする義母の行動は、この緊張を途切れさせるので困るのである。
「ばあちゃんはそこにいないで、座って、薬を飲んで」
夫は義父のズボンを脱がせながら言う。
「わしは、邪魔だで、居ねえほうがいいだ!」
義母は怒りながら、椅子に座ろうともせずに、私が朝食を作っている流し台の隣でうろうろする。
「おばあちゃん、薬を飲んで台の上にあるから」
私はため息をつきながら言う。
「これでいいだか」
義母は少し落ち着いたのか???
食卓台に行き出ている薬を眺め、立ったままで薬を飲む。
「おばあちゃん、何も急がないから座って、ゆっくりお湯を飲んで」
「これでいいだか」
立ったまま湯を一口飲む。
飲み終わった薬の包装紙を持ってまたうろうろを始める。
「おっばちゃん、その湯呑のお湯を全部飲んで」
「待ってくれや、すぐには飲めんで」
立ったままさらに一口湯を飲む。
「おばあちゃん、ご飯になるから座って」
「分かった」
更に立ったままで一口湯を飲む。
「おばあちゃん、座って」
義母は立ったまま湯を飲み干す。
「おばあちゃん、座って」
私は義母の湯呑と薬の包装紙を貰い、再度座るように言う。
おかずとお味噌汁を義母の前に置く。
義母は椅子の左端に座る。
「おばあちゃん、そこに膝が出ていると、ご飯持ってくるのに当たるから、しっかり座って」
私が義母の出ている左膝を手で押し奥に入れる。
義母は椅子に深くかけ直す。
ご飯を盛ると義母は朝食を食べ始める。
私たちが立っているから義母も立っていないといけない。
私たちが忙しくしているから義母も忙しくしていないといけない。
義母はこんな思いなのかな~
皆と一緒がいいのかな~