久しぶりに帝劇に行く。
途中、全身赤ずくめの女性に会い、あ、そうだ、とちょっとあわてた。
「ムーランルージュ」ならば赤い服の人もいるはず、そんな日になぜか赤いカーディガンを着てきてしまった。
それも、かなり鮮度の良い赤だ。

でも、一歩劇場に足を踏み入れると赤一色。
もはや、赤色が消され無色に見える。
その赤一面に、心は否応なく踊る。

井上芳雄さんのラジオにお招きいただいてから、この舞台を見たいなあと願っていた。
劇場に入った途端に赤一面の別世界という感動を味わってみたかった。

「ムーランルージュ」というと、私などはロートレックを主人公とした古い映画を思い出してしまって、三拍子の美しいテーマソングもすぐに口をついて出る。
だから、後年、同名の映画が封切りされた時、ミュージカル仕立てで、あのニコル・キッドマンが吹き替えなしに歌っていると聞き驚いた。

それが舞台化され、そこに芳雄さんも出られるという。
お客さまの中には、何回も来られている方も多いらしく、手拍子などの盛り上げ方が絶妙で、舞台と客席には馴染んだ感じが漂う。

物語じたいは(言い方は悪いが)他愛のないものだが、レビューといってもいい演者の方々の素晴らしさに、ふつふつとカラダが熱くなってく
る。

芳雄さんは、二十年前でもおそらくピッタリの役柄で、でも、その発声や身のこなしなど、長い年月に鍛えられた技を見せる。
余裕があるからこそ見せられる「切実」に、もはやミュージカル界のプリンスではなく、キングに近いことを知る。

これから。やれることは、おそらく物凄く多い。
歳を重ねた色香、それが泥にまみれ、岩に叩かれ、独特の香りを持つ表現者になっていくだろう。
それがどんな芳雄さんなのか、楽しみでならない。

ちなみに、フランスの至宝とも言える俳優ジャン・ギャバンは、ジャガイモに似た風貌なのに、おじいさんになってもどんな俳優相手でも、一番魅力的だった。
アラン・ドロンなど目じゃなかった。

フランスの俳優は、男も女もたいてい歳を武器にする。
若いことが恥ずかしいというか、残念だというような感じさえある。

表現者の道は果てしない。
芳雄さんの「これから」を、私の残り時間の中で、どれだけ見ることができるか、それはもうワクワクするしかない。