幸い思ったとおり、母親は元気を取り戻していた。
とにかくよく寝たらしい。
この暑さで、熱中症の心配もあるので、ポカリ系の飲み物も買い足しておく。
夜ふかし老人は、ここしばらくやめてもらう。

何かを伝える、何かを確認する、それがどれだけ伝わっているか、最近不安になっている。
しっかりとした母親だったが、話していると、どうしてこれがあそこにつながっているのだろうと、訳の分からないことも増えてきた。
しっかりしなくちゃと、頑張っているのだが、小さなほころびが見えてきて、悲しい。

父のいる施設にショートステイなどしてくれれば、どれだけ安心だろうと思うが、ボケた人ばっかりだもんイヤだと言う。
確かに、その気持ちもわかるが、だんだんに、それこそ季節が変わるごとに変化して行く母親を見ていると、不安は大きくなっていく。
時はこうして残酷に巡っていく。

両親が行かせてくれた大学のことをふと思い出した。
ヘンな人と出会いたいということだけが目標だった大学進学だったから勉強はしなかった。
それでも、いくつか記憶に残る授業があって。
その一つが、尊属殺人を取り上げたもの。
父が息子を殺すのと、息子が父を殺すのと、刑罰がまるで違う。
それをやっと撤廃できたことを先生が皆に熱く語っていた。
へえ、そうなんだ、などとアンポンタンの生徒は聞いていたが、あの時こそ、それまでの尊属殺人の刑法の変わった時だったのだと、今朝の朝ドラを見ていて感無量になった。

ついこの前のことのような気もするが、いやいや、遥かに時はすぎた。
その証拠に、もう私は電車の優先席に躊躇なく座っている。