今しがた父を見送ってきた。
今回も無事退院できた。

退院受付のため9時目がけ、番号も一番目。
幸先いい感じで、でも、なかなか呼ばれず、結局終わったのが30分後。
ホームのかたも車椅子を用意して迎えにきてくれる。

病室に上がり、父のベッドに行くと、車椅子に座ったまま、何やら机上の紙を見つめている。
白い紙には、9時に娘さんが迎えにきてくれること、7時半に朝食が出ることなどが、きれいな文字で大きく書かれている。

そこに文字があっても、その意味など、もうとうにわからなくなっている父が、ずっとずっとそれを見続けていたのだろうことに、一瞬胸にきりりと痛みが走る。

そして、こうしていろんな所に貼り紙をしていた、父が家にいた頃を思い出した。
そうだったなあ、そりゃあ大きな字で注意をひくように、貼ってたなあ。
でも、文字なんてなんの意味もなかった。
文字は意味のわかる人のもの。
そうでなければ、ただの記号だった。


父さん、もうちょっとでもう退院だよと、肩を抱き髪を撫でる。
ベッドに茶色になった血痕がいくつか。
服には、動くとわかるセンサーと繋がるコードが挟まれ、足には患者確認のシールが。
ここで激しい戦闘が繰り広げられていたことがわかる。

その硬いシールを看護師さんがパチンと切ってくれた。
その瞬間、こっちまで自由になったような明るい気持ちになった。

ホームの車に父を乗せ、車は去っていった。
父さん、お疲れさま。
でも、父はなんにもなかったように、ますますトロリとした世界に入っていく。
また少し確実に、遠い場所に行ったのだなあと思った。

ご心配いただきました皆さま、ありがとうございました。
これからちょっと休憩して、母のところに参ります。
誰かに必要とされることが幸せなのだと、自身に言い聞かせています。