家族に、つまり両親に自分の仕事に関わることは言わない、これが私のスタンスだった。
テレビでも何でも、出演することは言わないし、公演もまた。
親もまた、それで良い、それが良いと思っていたふしがある。

家にいる時は、ただの親と子。
子供からしても、それが一番居心地がいい。

ところが、一昨日の「うたコン」は母親に告知してしまった。
一人で夜を過ごす、しかもかなりの深夜帯老人なので、ちょっとした楽しみにもなるだろう。しかも、母親は越路吹雪ファンだ。

昨日、いつものように通いの家政婦として母の家に行くと、何も言わない。
夕方、入浴させ、夕食を終え、洗い物をしていると突然。
「見たわよ、昨日の」という。
「どうだった?」
「越路吹雪が一番良かった」

さすがである、
これ以上の答えがないような答えである。
96歳の老人などと、あなどってはいけない。

この容赦ない答えに、まあ、そういうことなんだろうと、納得した。
思えばこういう怪物のような人たち、越路さんや美空さんや美輪さんやシャンソンの大先輩やら、そんな方々には、おそらく追いつけない。
いくら頑張っても追いつけない。

以前なら、コンチクショウと思ったけど、今は思えない。
私は私の生き方でしか歌えない。
私の生きた時代の中で、懸命に泳ぎながら得た術でしか生きられないし歌えない。
それでいい、と思うようになった。


にしても(またこれだ)。
おそるべし96歳。
この調子だとまだまだ先は長そうだ。