昨夜のNHKスペシャル。
三重県熊野灘という海辺の町の、たった一人のお医者さんと住民の四年間のドキュメンタリー。
生きることと死ぬことが、隣り合わせに当たり前にある、それを取り持つお医者さんの話に、胸が満たされるのを感じた。

一人暮らしの今年100歳になるおばあちゃんは、カートを押して歩く。
いっとき、足の指が血行不良で壊死しそうになったが、自力で薬を塗り、診療所に通う。

肺炎で入院し、退院した後、一切モノを食べなくなったおばあちゃん。
どれだけ説得しても、食べようとせず、やがて安らかにこの世を去る。

寝たきりのおばあちゃんも、また、徐々に衰弱したくさんの家族に看取られながら、安らかに召される。

さまざまな老人を、この医師は送ってきた。
先生の奥さんも、言葉が出なくなる認知症で、その介護を続けながらの診療だ。

そして先生自身も心房細動で、手術と入院。
生と死が、先生にも隣り合わせにある。

先生が言う。
いやあ、人間のことなんてわからないよ。
いくら医者やっててもわからない。

命のことは、何十人も看取った人にも、やはり「わからない」ことなのだ。
さらに先生は言う。
「何が良いのかなんてない」と。
施設に入って死ぬことも、家族の中で死ぬことも、どうやって死を迎えるかも、どれが良いとか悪いなんてないということだろう。


人には人それぞれの死に方がある、それをどうこう言えることはない、と長い年月、対面してきた死の中で出た、彼の結論なのだろう。
胸があったかくなった。
そうだ、死ぬこと死に方に良い悪いなんてない、幸せも不幸せもないんだ。

75歳の先生は、地元の人たちと軽口をたたきながら今日もまた診療を続ける。
高齢者ばかりの海辺の診療所は、なんだかとても温かい。
生と死が隣り合わせで仲良くそこにある。
こんな所で最期を迎えられたらいいなあと、つい思ってしまった。

この再放送は水曜深夜にある模様。
あまりに素敵なのでぜひ。