母親と遭遇してしまったヤモリは、踏んづけられたにもかかわらず、どうやら元気で、先だっても、廊下にちょこんといた。
突然点けた照明に、なすすべがなかったのだろう。
あ、と思ったであろう、もう一度振り返るともうどこかに消えていた。

私は、そのヤモリをゲッコちゃんと呼んでいる。
(学名がGekko japonicusで、ニホンヤモリ)
ゲッコちゃん、まあ、なんと愛らしい。


母親は、寂しがりのくせに、家にゲッコちゃんがいるのは嫌らしい。
一階に降りてくる時は、どんどんと足音を立てて歩くという。
よほど遭遇したくないのだろう。

私が今、迷惑なのはカラスだ。
キジバトやスズメ用に水を張った受け皿を置いているのだが、そこに、ある時からパンやオニギリが浸かっているようになった。
カラスが、それらを水に浸して、戻ってきたらフニュフニュと食う算段をしているらしい。

水は当然汚れるので、見つけたらすぐ捨てる。
でもあまりに頻繁になったので、受け皿をやめた。
すると、いつものようにやってきたカラスが、クチバシにパンをくわえたまま呆然としている。
あれ、ないぞ、間違えたかなというようにキョロキョロして、やがて飛び去った。

そういうのを見ていると楽しい。
そしてびゅうと飛ぶ鳥を見ては、胸が飛ぶ。
ああ、鳥になりたいなあと思う。

鳥は鳥で大変だし、ヤモリはヤモリで大変だろうが、ニンゲンも大変だ。
ああ、もう空飛びたいよお、と身悶えする。
高所恐怖症なのに、いつもそう思う。