演劇がしたくて大学に入ったのだが、時代の流れなどトンと知らない私は、すぐに大学難民のようになった。

どこかがひどくズレているので、自分のクラスがどこかも知らず、そのことで、どこにも行き場所がなく、友達もいなかった。
大きな教室を探しては、ガラアンとした教室の隅っこで一人、持参したリンゴと6Pチーズ一個を食べた。それが昼食だった。

そんな私が、やっとの思いでたどり着いた劇団は、大隈講堂の裏にある黒い不気味な建物で名前を「こだま」。正確には木ヘンに霊と書く。
そこで、先輩に誘われるまま行ったのが紅テントの状況劇場。
生まれて初めて見るテント芝居だった。
上野の不忍池湖畔に張られたテント内は、ぎゅうぎゅうの若者。
なんだこれ。

自分が思っていた演劇とは全く違う。
違いすぎて訳がわからん。
でもこれが時代の流れだった。
世の中はもうアングラだった。

その紅テントの唐十郎さんが、亡くなった。
実は、もう亡くなっていると思っていた。

自分自身の輪郭が、だんだんにふやけてぼやけてきているせいか、もはや誰が生きているのか死んでいるのか、最近はさだかではない。

今でも、上野の不忍池あたりに行くと、この若き日の紅テントを思い出す。
ちょうど、そのあたりにシャンソン系ライブハウスがあるので、年に一回ほど伺うたび、二十歳の若い私と再会する。

半世紀経って、こんなふうに歌っております。
その時はたいてい、ぎしりと時空がゆがむ。

そうか唐さん、亡くなったのかあ。