ずいぶんと昔、知人の建築家が桂由美さんのアトリエを設計したというの知って、それからそこを通るたび、窓辺の美しいドレスを親近感いっぱいに見るようになった。

私自身は、一回結婚式をしたが、何から何まで手作りのものだったので、ドレスを作るとか借りるとかいう発想もなかった。
前日まで引き出物を入れる紙袋の調達に走り回っていたくらいで、ドレスもちょうど通りかかった店の白いワンピースに決めた。
今思えば、ローウェストのどこかアールデコな感じのものだったが、安くて足さばきも良い。
当日も仕事が山のようにある花嫁には、ピッタリだった。

そのドレスもどうなったか、覚えがない。
その時の記念写真もどこへ行ったか。

まったく風のように月日は過ぎる。
人は人と出会い、また別れる。

ウェディングドレスを着ることはなかったが、歌い手という商売の哀しさで、白いドレスを着ることも多い。
これまで私のドレスを作ってくださっていた方も、元々はウェディングドレス専門。
それがコロナ禍で、ご自身の年齢もあって辞めてしまわれた。

それらしいものはネットで安く手に入る。一回か二回着て後はそれこそメルカリやフリマという時代。
しっかりとしたドレス作りの技術を、時代が必要としなくなってもいた。

後ろにたくさんの白いドレスがかけられたアトリエで、その方と撮った最後の記念写真はスマホに残っている。
これまでのお互いへの感謝と尊敬に満ちたツーショットは、消してはならぬ一枚だ。


針と糸に命をかけ、時代を生き抜かれた
先輩の女性の方々に、心からの敬意を捧げます。