花粉を含んだ強風が襲う。
自転車がふうと傾く。

父親に会いに行くのは五日ぶり。
前回は、私の名前をマサオと言った。
それ、死んだおじちゃんの名前だよ。
多くの兄弟姉妹、もちろんおじいちゃんもおばあちゃんも。
みんな天国にいる。
でも、時々「おばあちゃんは元気か」と聞く。
おばあちゃんて誰のことだ。
父さんのおばあちゃんは、とっくに死んじゃったよ。

母さんはね、と母親のことを話すのだが、だんだん混乱してくる。
母さんはママのことだよと言うが、こちらも混乱してくる。
母さんは確かにおばあちゃんである。

昨日は、自分の部屋がどこにあるかで混乱した。
父親と部屋にいると、どこでご飯食べるのか、一人だとわからなくなると言うので、多くの職員さんのいるホールに行く。
と今度はまた自分の部屋はどこだっけ。
ホールと部屋と、父の手をとって往復する。
これぞまさに筋トレのような気持ちになる。

確かにボケは進んでいる。
でも、父親はやっぱり父親で、わりと穏やかでいてくれる。
その目は昔と同じ、ちょっと灰色がかっているが、前より薄く感じる。
父さん、もう帰るよ。
立ち上がって私についてこようとするが、職員さんに止められ、手を振る。
バイバイまた来るよ。

毎回毎回、一つとして同じではない。
誰もに同じ一日がないことと、同じ。
そうだ、そういうことだ。
みんな毎日違うのだ。
そう思えば、少し気が楽になる。

さ。これから母親の訪問診療。
行くか。