「B 29って、ほんとに綺麗だったわねえ」
昨日、東京大空襲の日、母親が言う。
自身も追いかけられ、必死に神社の境内に逃げ込んだのに、そのキラキラ光る飛行機の美しさを、夢見るような目で語る。

そういえば、広島の原爆で大変な人生を送った笹森さんもまた同じことを言っていた。
ぶううんと青空に現れた光る飛行機。
「まあ、ほんとに綺麗ねえ」と、見上げ指差した瞬間、世界は一変した。

笹森さんも母親も、女学生だったのだ。
夢見る少女たちだったのだ。
それが、毎日毎日、母親は軍需工場へ、笹森さんは建物疎開へと、モンペを履いて出かける。
でも綺麗なモノへの憧れは、誰にも消すことができない。
それがたとえ敵機だとしても。

このあたりのことを聞くたび、胸が痛む。
同じ女性として抱きしめたくなる。
そうだよねえ、そうだよねえと抱きしめたくなる。

母親はこの頃、よく戦争のことを言う。
愚かな戦争を二度としちゃいけないと言う。
戦時中の女学生は、みんなそう思っている。
でも、だんだんに皆、去っていく。
綺麗な時を奪われた女学生は、だんだんに去っていく。

そして。今日は3・11。
サントリーホールで恒例のチャリティーコンサート。
あれから13年。
3月は、いつも心がざわざわする。