父親のホームから電話。
またれいによって緊張して出る。

お父さまが背中を叩かれて。と言う。
入居者の女性(もちろんおばあさん)が、父の所にやってきて背中をゲンコで叩いたというのだ。
なんだそれ。
父の様子はどうですかと聞くと、女性に叩かれたことでちょっショックを受けているようで、皆で対応していますと。
もう行くしかない。
あわてて駆けつけると、出てきた父親はなんだか生き生きしている。

二人で座って話を聞くと、父の中では、ちょっとした交通事故のようなものに変わっている。
車との接触事故のような。
病院行かなくてもいいかなあとか、相手はどうしたかなあとか。
職員の皆さんにも、そして娘にも、心配され大事にされ、それで嬉しくなっているのだろう。
その頬に何回もキスをする。
良かったね、なんともなくて。

そのおばあさんは、以前から問題ありの人だった。
入所した時、父が親切にしたことで、彼を夫だと思ってしまい、なにくれと世話をしていた。
その過剰さに父は怒り、二人をなるべく離す配慮がされた。
それでも、嫉妬というものは消せない。
家族の私たちや、入居者さん、職員さんたちが、父の周りにいることが気に入らなくなってしまうらしい。

娘が言うのもなんだが、父はけっこうダンディなのだ。
歩くことこそヨレヨレだが、足を組んで座っている姿はとても認知症の入った老人とは思えない。
母親に、その「事件」を話すと。
「ひどい、あたしだって叩いたことないのに」

もうこうなると落語のようで、人のなす様々が、どこかオモシロイことのように思えてくる。
オモシロクて、やがてカナシキ。
そんな感じもする。

こんなことは、きっとどこでも起こっているのだろう。
人が人である以上、人が心を持っている以上、子供でも老人でも、そこに諍いは起こる。
問題のおばあさんを、だから責める気持ちにはなれない。
先だっての、モンスターおばあさんも同様で、経てきた人生を想像し、なんで今こうなってしまうのだろうと、そこに個人を超えて、ニンゲンそのもののカナシサを見てしまう。

みんなカナシイ。
だってニンゲンだもの。
そんな気持ちになってしまうのだ。