父親のいるホームからの着信には、いつも緊張する。
声が低くなる。

そんなこちらの気持ちをほぐすように、ホームの職員さんは話し出す。
「口の中にヘルペスというか、ちょっとプツッとできていまして」
ちょうど、訪問歯科の先生が来られているので、診療をお願いしようかと、という話だった。
とりあえず、ホッとする。

そして今朝にその結果の電話。
できている場所が内科的な場所なので、来週の内科訪問診療で再度診てもらいますとのこと。
この口の中のプチッは、最近、母親にもあったことなので、慌てることもない。

いくら健康管理をしていても、老人のカラダの栄養の取り込み方は衰える。
同じものを食べても、若い時とは違う。
母親の場合には、ビタミン系錠剤と塗り薬で良くなった。

父と母。
この二人はどうやって最期を迎えるのだろうか。
これがいつも頭から離れない。
苦しみがあるとしたら、その苦しみの少しを私にまわしてくださいと、以前は神さまにお願いした。
でも、今は、まあ、しょうがないなあと思う。
私に二人分の苦しみを受け入れられるかどうか、だんだん疑わしくなっている。

いろんな人の最期を知ったり聞いたりするたび、最期は選べないのだと思う。
だから、しょうがない。

昨日、母親の髪と顔を拭いていると。
「なんだか子供に戻ったみたいねえ。長く生きすぎちゃったわねえ」と、つぶやく。
うちはすごいよ、父さんも母さんも二人とも長生きなんだから、普通どっちかいなくなってるのにねと、励ましだかなんだかわからんことを、娘は言う。

二人そろって百歳超えたら区からナニかくれるかもしれないよ、表彰状とかもね。
「やだあ、そんなのいらないよ」
こんなことで笑いあえる時間は、きっとそんなに長くはないんだろうなあ。