食後に母親に薬を飲ませるのだが。
背が曲がっていて、ということは、首がまっすぐになりにくく。
サプリも含めた数錠を一気に飲むのがムズカシイ。
でも、母親は手のひらの錠剤を確かめると口に入れる。
「ヒヨコだよ、ヒヨコ」とそばで私が言う。

昔、夜店で買ったヒヨコがいて、そのヒヨコは水を飲む時、首をまっすぐ天に伸ばした。
すると、スルスル水が喉を通るのだ。
その時のヒヨコが半世紀経っても出てくる。
そして今、目の前の母さんにヒヨコヒヨコと注意しているのだ。

昨日もそうして母親を見守っていたのだが、神経を集中してヒヨコ飲みをする母親を見ていて、ぐぐぐと突然哀しみが襲ってきた。
驚いた。
慌てて、台所に立った。
そしてぼろぼろ吹き出てきた涙を隠した。

なんだこれ。
いつものことじゃないか。
なのに、なんだってんだこの涙は。

白っぽい顔で薬をヒヨコ飲みする、この母親の顔を、きっとずっとずっと忘れることがないなあと思った。
その顔は、もう胸の深い深いところに降りてしまった。

少しずつ少しずつ別れが近づいているのだろうなあ。
その足音に、こうして突然気づき驚くんだろうなあ。
やあねえ、まだまだよと母さんは笑うだろうなあ。