通常通り、朝パソコンを開けていると、スマホに着信音。
見ると母親から。
いつもなら固定電話のはずがどうした、と胸がざわつく。

もしもしもしもし。
うまくつながらない。
母さん、あたしだよ、どうした。
大きい声で話しかける。
ドキドキする。

ふがふがふが。
母親がなんか言ってる。
まだ入れ歯を入れていないらしい。
聞こえにくい。

「トイレがねえ」
まずい、トイレ故障か。
あわてるが、よく聞くと。
トイレットペーパーホルダーが落っこちた、ということらしい。

ああ、良かった。
いや、良くはないが、トイレ故障よりはいい。
「なあんだ、びっくりした、そんなの大したことじゃないよ、大丈夫だよ」
そういうと、安心したのかいつもの母親に。
「だって、夜中におっこっちゃったのよお、ヤンなっちゃうわあ」

命に関わることじゃないのに、命に関わることのようになるのが老人なのだろう。
そうはいっても、朝夜の電話は、こちらの心臓にも悪い。

今日はこれから仕事で、その後行くからそこでちゃんと見るからね、大丈夫だからね。
と、ここでも大丈夫の嵐。
ホームの父親にも家の母親にも、娘はすべて大丈夫で押し通す。
でも、ホントに大丈夫なのか。

ネットで検索する。
こんなことも、今はネットなのだろうなあ。
便利屋さんなんて見たことないもんなあ。

とりあえず見当をつけ、仕事に向かう。
大丈夫、大丈夫、今は自分に言い聞かせている。

ああ、ドキドキしたなあ。