朝、かかりつけ医にいつもの薬をもらいに行く。
小さいクリニックで、たいていクラシックが流れているので、はあんこの先生は音楽好きなのだなあと思ってはいた。

診察室の椅子に座ると突然。
「この前FMに出てませんでした?」
え、なに、なにこれ。と慌てる。

私は自慢じゃないが、いつもひどい格好だ。
百人に職業当てクイズをしても、おそらく誰も私が歌い手だと思う人はいないだろう。
しかも帽子にマスクに度の強いメガネ。
クミコは本名だが、カルテから、ラジオから流れる歌がこの人だと、どうしてわかるだろう。

驚きつつも観念して、どうしてわかりましたかと聞くと。
「声です」
でも、歌う声と話す声がえらく違うと言われる私なのだ。
もはや感嘆の眼差しで先生を見つめる。
この人は、もしかしてものスゴい耳を持っているのだろうか。
そしてまた、無類の音楽好きなのだろうか。

帰り道。
にしても、私、もうちょっとちゃんとした格好をすべきか考えた。
この頃は、ますます服装ボーダーラインがなくなっている。
母の家に行くのも、父のホームに行くのも、誰かと外で会うのも、同じだったりする。
ちょっと前までなら、着替えていたはずがそのまま。

昨夜は、数年ぶりに新年会と称し、友人二人とご飯。
「もうさあ、最近はユニクロとムジ(無印良品)だけだよ」
と、皆が同じことを言う。
下着から上着までこの二つで済んでしまう。

もともとブランドものには興味がなかったが、それぞれ個性あるオシャレ感は残っていて、安くても快適なオリジナルオシャレをしている。
これでいいな、と思う。
この生き方でいいなと思う。

いやそれでも、私が一番ヤバいのは間違いない。
上など、ずいぶん着たから明日洗濯しようと目論んでるフリース。
ナンジャコレ状態。

もうほとんど投げてるな人生。
諸先輩がたのオシャレを思い出し、ここらで奮起するかと思うものの。
もう、いっか。
気が抜けている。

ううむ。
歌う時だけは綺麗(なふり)にしよう。
これでいいや。