今でこそ、渋谷というと中高年には、嬉しくない街になってしまったが。(いやいや、好きな方もおられるだろうが)
十年ほど前までは、ピアノ屋さんが経営する貸しスタジオがあった。
いくつかの部屋にピアノが置いてあって、アップライトとグランドとの二種類。
安く借りられるのは、もちろん縦型のアップライトの部屋で、いつだったか、小さい部屋から十人ほどの人が出てきた時は驚いた。
きっと合唱の練習でもしていたのだろう。

そのスタジオは今はない。
でも、もう一軒のピアノ屋さんは、改装してあらたに営業を始めた。
駅から近いのに、そのビルは、どことなく昭和のような親近感を持つ。
売り物のピアノが並ぶ隣に、ピアノの置かれた部屋がいくつか並ぶ。
音大生も、歌のレッスンの人も、私のように、ちょっとしたピアノと歌だけのリハーサルをする人も。

たまにしか来ることもないが、来るたび、それぞれの部屋からちょこっと漏れる音に耳を澄ませてしまう。
音楽が、こうして普通にそこにあることに感謝したくなる。

カラオケ屋さんではなくピアノの部屋。
そこから流れる音楽が、うれしい。
昨日は一時間だけリハーサルをした。
なかなかうまくいかない歌で、良くも悪くもいかにもシャンソン的な歌。
これにずっと手こずっている。

歌詞がこれまた難解で、でも、スルーできない。
もうやめたと言えない。
どこかが引っかかる。
どこかの小さな言葉が引っかかる。
リハーサルをしたものの、帰って録音を聴くと、全然あかん。
ギシギシと心が波立ち、小節を確認する。
まだまだ先が見えない。

歌はその人にしか歌えないものにならないと、歌う意味がない。
その道が見えない。
また、あの小さなスタジオに行くか。
渋谷は苦手だけど、スタジオは良い。

あ、こんなこと書いてたら出かける時間。
突然ですが、これにて。
あたふた。