「舟唄」のことをここで書いた記憶がある。
八代亜紀さんの番組に出演させていただき、あろうことかこの名曲をご一緒した時のことだと思う。

八代さんを初めて見た、というか歌い手として同じ舞台に立ったのが、もう20年前も前。
NHKの「歌謡コンサート」という生番組で、ほとんどの人が私のことなどご存じない頃。
その時、二葉百合子さんが出ていらして、出演者全員が退場する時、その手を優しく引いておられたのが八代さんだった。
芸能界の端くれに入ったものの、歳は充分なのに、右も左もわからない私は、そうかこういう場所でもこういう心遣いはあるのだと感心した。

その八代さんに、最後にご挨拶したのは、大きなホールの舞台袖。
ちょうど、ご一緒した番組の後で、そのお礼も申し上げたのだが、その時、八代さんはお付きの方に手を引かれておられた。
暗く足元の悪い舞台袖への道ではあったが、その時ふと初めてお会いした時のことを思い出した。
二葉さんの手を引く八代さんを手を思い出した。

きっとその時には、お身体の不調が続いておられたのだろう。
どんなお気持ちで仕事をされていたのだろう。
知るよしもないことだが、唯一無二の歌声で一世を風靡された八代さんの訃報に、なんかガックリとした虚しさが広がる。

細かい砂を集めたような独特の声を、隣で聴けたこと、しかも「舟唄」をご一緒できたこと。
天国に渡られた八代亜紀さんに、ご冥福を祈り、心からの感謝を申し上げます。
八代さん、ありがとうございました。