また少しあたたかくなった日の夕刻。
銀巴里の先輩方が集うコンサートにうかがった。
総勢12名。
どなたも、よく存じ上げている。
シャンソン界を牽引されてきた尊敬する先輩方だ。

銀巴里方式、つまり、四人が二曲ずつのリレー。
なので、舞台ではお二人ずつのおしゃべりが聞ける。
脚がどうの腰がどうの頭がどうの、と私自身も、そしてお客さまも、身に覚えがあることだらけで、温かい笑いに包まれる。

そうか、こうして年月は誰の上にも過ぎていくのだなあ。
悲しいことや辛いことが当然のように増えていくけど、でも、どっこい、みんなこうして音楽のもとに集い、生きる喜びの交換ができる。

先だっての私のコンサートに出演してくださった瀬間さんも出演されていた。
その時のお礼かたがた、楽屋にご挨拶へ。
あの時のことを、瀬間さんは大層喜んでくださっていて、ほんの少しのご恩返しができたような気持ちになる。

そして「幸せな愛などない」の楽譜をくださった。
歌い継ぐなどと言っては不遜だが、背筋を伸ばすような気持ちで頂戴する。
楽譜の上に可愛いメッセージカードがあって、そこにはこの歌を歌ってもらうことで「I」も喜んでいますとあった。
「I」さんは、この歌の訳詞者で、瀬間さんのご主人だとは、最近知った。

どんなに愛し合っても別れがくる。
だから、幸せな愛などない。
胸がつまるような気持ちになるが、誰でも生きている限りには出会う別れ。
それをはっきりと自覚できる歳に、この歌を渡されたことがうれしい。

しょうがないのよね、いなくなっちゃうんだから。
そんな空から降ってくる小さなみぞれのような瀬間さんの言葉に、私は言葉をなくす。
でも、でも。
歌がある。
その冷たいみぞれを歌う歌がある。
そのことの幸せを思う。

かなりポンコツ度の増した頭を、しっかりせよと叱咤しながら、さ、頑張らなきゃ。