突然。
ナニモノかが、それまでの穏やかで普通にあった日常に押し入ってくる、その恐怖。
それは戦争であったり、災害であったり。

いつも通りに食卓を囲む家族のもとに、それこそドアを蹴破るように銃を持った兵士がなだれこみ、泣き叫ぶ声の中、父親を乱暴に拉致していく光景。
大きな地震の後、いつもどおり後片付けをしている街に、黒い巨大な波が押し寄せる映像。

そんなシーンを、心臓をえぐられるような恐怖で見てきた。
それは映画であったり、実際の映像であったり。


突然、今住んでいる街が、戦時中になる。
この本を読んだ時、窓の外にはビーチが広がっていた。
その頃、まだ若い私は海外の海辺にいた。
ふらふらと毎日をあてなく楽しもうとしていた。

それが本一冊で、ぐしゃぐしゃになった。
「終わりに見た街」山田太一さんの小説。
平和な日本に暮らす普通の少年の周りが、ある日変わり始める。
時空の渦がどこかで、今を戦時中に変えてしまったのだ。

それまで、これほど衝撃を受けた本はなかった。
本から顔をあげると、そこが本当に南の島なのか、アタマが混乱した。


日常を突然変えてしまうモノ。
そこから起きる変化。
それが、山田太一さんの作品に底通していたテーマかもしれない。

でも、今。
「突然」は、いつでもなんでもどこでもありになってしまった。
戦争も災害もなんでも「突然」起きる。
突然がたくさん起きる、そんな時代になってしまった。

そんな今。
山田太一さんの死因が「老衰」とあったことに、なんとも言えない、不思議な気持ちになった。

ありがとうございました、山田太一さん。