鹿賀丈史さんが、私のレパートリーを歌って下さっていると知ったのは、夏の「パリ祭」でだった。
特別ゲストの鹿賀さんの楽屋にご挨拶にうかがうと、ぼく、クミコさんのCD聞いてますよとおっしゃる。

まさか、そんなと驚き、さらに今度ライブをするんで、その時歌おうと思っていますと挙げられたのが「生まれてきてくれてありがとう」や「ブラボー」というオリジナル曲だった。

そして昨日、丸の内のコットンクラブにうかがった。
美しく落ち着いた店内に、鹿賀さんの声が響く。
鹿賀丈史という人生が、そのままそこにある。
一線で活躍することがどれだけ大変で過酷なことか。
それを乗り越え、今の光に包まれた鹿賀さんが歌う。
それだけで胸が熱くなる。
そこに私のレパートリーが四曲も加えて頂いている。
光栄すぎる。

公演タイトル「ミスキャスト」に関するお話は、芸能に関わる人間ならば、きっと誰も胸打たれるものだった。
どれも自分にはミスキャストに思える仕事を、こなす。
ただ前を向き懸命に取り組み、自分のものにする。
当たり役だらけと思える鹿賀さんの、意外なお話、そしておそらく並大抵ではなかった苦しみを思う。
心の底がシーンと静まってくる。

鹿賀さんの歌は、ただそこに鹿賀さんがいる。
好きな歌を好きなように歌う、鹿賀さんがいる。
鹿賀さんが空間を満たす。

芸の道は長い、そして険しい。
でも、ただただ歩むしかない。
ただ「その人」になるために。

芸の道の極意というか、心得というか、覚悟というか、目標というか、そんないろんなものを示唆される鹿賀さんの歌だった。