人生をチョロく考えるのが、若者の特権かもしれない。
なんでも初めてなので、アンバイがわからない。
で。たいてい失敗する。

失敗しない人もいる。
そういう人は、もう若いうちから、人生を俯瞰して見られる。
大谷先生選手などまさに。
あるいは藤井棋士など。
まあ、天才はみんなそうだ。

で、私は、失敗ばかりした。
中野サンプラザの舞台で、歌詞を忘れて立ち尽くした。
ポプコン関東甲信越大会で、優勝候補だったにも関わらず、二番の歌詞が出てこなかった。
その前まで、予選もあったし練習もしていたが、だいたいが歌詞が出てこないという事態を予想できなかった。
そんなことが自分に起こることとは思えなかった。

ああ、やっちゃった。
まぶしいピンスポットの中、立ち尽くし、サビの部分からまた唄った。
あんまり突然だったので笑いそうになった。
人は非常事態の時に笑う、というのは本当だ。

それが45年も前の話。
中野サンプラザは、それからもずっとそこにあって、なぜかその街に住むことになって、図書館にも、スポーツクラブにも、ホテルにも、なんだかんだとお世話になった。
仕事で、舞台にもずいぶんと立った。
その度、いつも歌詞の立ち尽くしを思い出す。
立ち尽くす自分と、今立っている自分の距離を確かめる場所でもあった。


ただ時間が流れたのだ。
ただそれだけのことだ。
中野サンプラザは、古い友達みたいなもんだ。
それは変わらない。

だから、通りすがりの人に「ここがサンプラザ中野ですか」と聞かれれば、しっかりと「いいえ、これは中野サンプラザです」と答える。
だって大切な友達なんだもん。

ありがとね、バイバイ、サンプラ。
君はほんとにシベリアケーキに似てるね。