若い頃、サイパンに行った。
そこで海底に沈む戦闘機を見る潜水艦ツアーに参加した。
サイパンとか沖縄とか、そこで多くの命が亡くなった場所では、いつも敬虔な気持ちになる。
おじゃましていますという気持ちになる。

なのに、なんでこんなツアーに参加してしまったのだろう。
そのことを後悔したのは、潜水艦から降りるときだった。
「皆さん、ここから外へ出ます。順番に並んでお待ちください」
係員の注意が出た途端、あああっと声が喉元まで押し寄せた。
恐怖だった。
私は閉所恐怖症だったことに、その時気づいた。

たった一つの地上への階段の周りで、みんなが静かに上を見上げている。
私もその一人だったが、私はただただ叫び出しそうになるのをこらえているのだった。


海底に沈むタイタニック号を見るツアーの潜水艇が事故を起こした。
映像で見るその内部に、動悸が激しくなる。
こんな小さな船内、そしてこんな深海。
そして何より、多くの命が眠っている場所の観光ということ。

これを冒険という人もいるが、潜水艇の内部からスマホ撮影している参加者の映像は、決して気持ちの良いものではなかった。

「まさか自分がここで死んじゃうなんてみんな思っていなかったよ。だからダメなのよ、そんなとこ見に行っちゃ」
母親が言う。

バチが当たるとかどうとか、そういうことではなく、死者の尊厳ということを思った。
生きている人間の尊厳と同じに、死者の尊厳がある。

「冒険」という言葉が物見遊山に変換できてしまうようなことは、よくよく気をつけねばならないなあと思った。