父親のホームに行く。
母親も一緒だ。

母親の夢に、父親は毎日のように登場するらしい。
今の父親ではなく、若き日の父親だという。

その父親は、毎晩のように妻はどこだと部屋から出てしまうというのだから、この二人はやはり立派な夫婦、ツガイだろうと思う。
けれど、母親は一緒ではない。
彼女には彼女の生活がある、崩したくない生活がある。
そこいらは、そりゃそうだと娘は思うが、なんで一緒にいないのだと怒る父親を前に返す言葉は虚しい。

父さん、すごく怒ってるね。ここいらでちょっとショートステイしてみた方が良いのではと、提案する。
入所ではなくショートステイ。
何泊かしてまた家に戻る。

少し前には絶対嫌だと言っていた母親も、だんだんと納得してきた様子だ。
そんなに残り時間があるとは思えない。
これまで長い長い時間を共にしてきた今生のご縁だ。
人生の「いいとこ取り」ってできないだろう。
若く元気ではない、老いた時も病める時も、人生にはあるのだから。

お父さまは本当に穏やかです、とホームの職員さんにほめられる。
暴力的になったりする男性も多い中、まれなことだといわれる。
そのたび、父親はどれだけ我慢をして生きているのだと切なくなる。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

でも、子供ではもう無理なのだ。
妻でしかできないことがあるのだ。
老いた夫、老いた妻。
二人でしか満たされないことがあるのだ。

なんてえことだ、この夫婦ってやつは。