痛っ。
台所に行くと、ときどき足の裏に、何かがはりつく。
それは、パン屑だ。

母親が朝昼兼用の食事をして、そのパンの屑が、いつも必ずこぼれる。
食卓から台所へと、パンを乗せていたカゴのようなものから、パラパラとちっちゃいパン屑が、こぼれる。
よちよちとゆっくり歩く、その手が少し傾きパン屑が床に落ちる。

帰った私は、洗い物に台所に立つが、すぐ痛っとなって、あわててパン屑を拾う。
それから、洗い物にかかる。

こんなこと、なんでもない普通のことなのに。
夕べ、夕食のあと、拾い忘れていたパン屑を踏んづけ、痛っ、となった。
そしたら、何だかどっかから涙が出てきた。
涙は、時々奇襲攻撃をする。

母親は食卓に座っている。
涙の奇襲など知られてはならない。
皿拭きの紙で、目を拭く。

不意をつかれた。
涙の不意打ちだ。
あーあ。