以前にも何回か書いたが。
駅前にホームレスの女性がいて、そのかたは最初の頃は、大きなゴロゴロと一緒に歩いていた。
それが、だんだんに身なりがボロボロになって、足を引きずり、ガード下に寄るべなく座っているようになった。

おそらく私だけでなく、色んな人が彼女のことを心配していたはずで、ちょうど、ここから出ている渋谷行きのバス停で、やはりホームレスの女性が近くの男性にゴミのように殺されると言う事件もあって。
ホームレスの女性たちが、みんな他人事ではないような気持ちになった。

そして、ある時からこの女性が車椅子で駅にいるようになった。
ちょうど「みどりの窓口」あたり。
膝掛けもあるし、保護されたのだろうと安堵した。

昨日。
またその女性がいた。
行きには、二、三人の方々が彼女とお話されているようで。
帰りは、また一人、それも陽なたで、眠っている。
日差しは結構にキツい。

熱暑病になりはせぬか、心配になって横断歩道の途中の交番に走った。
大きな白髪混じりのお巡りさんが立っている。
「あのかた、あのままで大丈夫でしょうか」
「ああ、大丈夫ですよこの位の日差しじゃあ、もっと暑い日もありますからねえ」
お巡りさんが、のんびり答える。
そんな、あほな。
でも、不安顔の私に。
「あの人、いくら言っても施設に入らないんですよ。車椅子も、誰かが寄付したんです」

そうか、そうだったのか。
行きに見た男女は、保護の方々で、この日もきっと説得にきていたのだろう。
目線を車椅子女性に合わせ、ひざまずくように、話していた人たちを思い出した。

「そうですか、みんな心配してるんですよね」
大きなお巡りさんの眉毛の白髪がぴらぴら光る。
「ありがとうございました」
礼を言い、元の歩道に戻る。
その女性は、車椅子に斜めになりながら死んだように眠っている。
突然、涙が溢れてきた。
なんなんだ、自分で驚いた。
涙は後から後からマスクに吸い込まれていく。

この人はここにいたいのだなあ。
駅で誰かを待ちながら、ここにいたいのだなあ。
そして、ここで死にたいのだなあ。
一段と小さくなった姿を後に、小走りに信号を渡った。

どうしようもないことがある。
それは本当に、どう、仕様もないことなのだ。
人の心のことは、それなのだ。

その女性が誰を何を心に持って、生きているのか、わからない。
でも、どこかで誰かが、その人のことを気にかけている。
それは確かなんだ。