恩ある方に、夕食のお招きを受けた。
同席されるもうお一方にも恩があり、しかも、会食の店が高級中華店。
だからといって、それ用の服があるわけでもなく、例によってセーターと白いパンツで出かける。

私には本当にちゃんとした服がないことに、こうして時々気づく。
カジュアルか舞台衣装か。
なので冠婚葬祭系にはいつも困惑することになる。
それでも、昨今は、そんなにドレスコードの厳しい状況も少ないので、まるでコソ泥イタチのように、ちょこまかとその場をしのぐ。

で。
その高級中華店は初めて。
遅れてはいかんと事前にマップのチェックもした。
麻布十番あたりは、大きなリハーサルスタジオもあり土地勘もある、と少し安心もしていた。
ところが。
地下鉄を降り地上に出ると。
もう、すっかりさっぱりわからない。

この辺りは頭上に高速道路だらけ。
地図のシミュレーションがぶっとんだ。
落ち着け落ち着け。
昔、渋谷で駅前の目指す映画館に行き着けなかった苦い思い出が蘇る。
せっかく高校をさぼって意を決して出かけたのに、埼玉の高校生に渋谷は難易度が高かった。
それはもう悪夢だった。

落ち着け、落ち着け。
今はスマホがあるぞ。
ところが、こういう時に限ってスマホがバカになっていた。
現在地を移動しているはずが、矢印が動かない。
心臓がバコバコしてくる。

結局お店に電話して教えてもらうという、アナログな方法でやっと到着。
目と鼻の距離だった。

恩ある方々をお待たせしてはいけないはずが、お待たせしてしまったのだった。
ナサケナイ。
高校生の時と何も変わってなかった。

でも、いただいたお料理は素晴らしく美味しく、お話もこれまた素晴らしく楽しく。
ああ、この歳になってもこんなふうにお招きいただく幸せを思った。
本当ならこちらがお招きしてもおかしくないのに。

きっと私はこのままコソ泥イタチのように、ペエペエアタフタ生きていくのだろう。
ナサケナイ。
でもまあ、こんな者でも心に誠意さえあればなんとかなる。
と、自らを擁護してしまうのだなあ。