幸か不幸か。
私はスポーツに熱狂したことがない。

昔、たった一回友人たちに誘われ、ラグビーを観にいった。
確か大学と企業との決勝戦だった。
一月の寒い時期、どっちがどっちかわからぬまま席に座っていたが、これはこれで楽しかった。

それより昔には、夫だった人が阪神ファンで、野球場にも出かけた。
ドームになる前の球場で、ただただビールを飲んだ。
これはこれで楽しかった。

でも、どちらもその競技そのものより、座席でのビールだったり、終わったあとの居酒屋を楽しみにしていた記憶がある。


テレビをつけると、今はWBCだらけだ。
もちろん大谷さんはかっこいいし、日本のユニフォームだって一枚くらいもっていたい気持ちがするけど、どうも、根本的に熱情と熱量が足りない。

なんらかのスポーツ好きであったなら、日常がどれほど豊かになるだろうと思う。
わくわくどきどきの時間が、たくさんやってくるのだ。

なのに。なんだって。
そのざわめきが、ない。
まったく、ない。
これは恋の季節を見落としてしまった感じに似ている。
残念としかいいようがない。


今は、なるべく母親と一緒にいる。
そして、味噌汁など作る。
父親がどうしてるかと、話しながら一緒に食べる。

巨人と相撲好きだった父親、その目はもう何も見ていない。
そこにテレビがあっても、それはもうテレビではない。
試合や取り組みのあと、だれがどうしたこうしたと熱く語る父親はもういない。
人生の凪。

そうだ、これは凪なのだ。
熱狂と対局にある言葉。
凪、なぎ。
なんだか、胸に沁みてくる言葉だなあ。