世の中で何が嫌いか。
それはもう決まっている。
エラソーなやつだ。

先だって、仕事帰りに飯屋に寄った。
久々に牛タンてのもいい。
一人なので、カウンターを案内されると、隣にオジサン。

ちょっと嫌な予感。
オジサンがイヤなのではなく、所狭しと並べられた食器と酒。
ずずずずとおじさんが食べ続ける。

いやいや、そんなことどうでもいい。
ずずずと食べようと。酒飲んでようとかまわない。
私だって、立派なことなど何もなく生きてきたオバサンだ。

そのうち、オジサンが若い店員さんを呼ぶ。
「これとこれをね半分ずつね」
店員さん、「えっと、それはできないんですが」
「できるよ!前もできたんだ」

どうやら、メニューにはない組み合わせを、このオジサンは注文しているらしい。
そりゃあまあ、融通のきかない店にも問題はある。
あるが、このオジサンのドーカツがやばい。

俺はいつもここでこうやって俺だけの注文をしてるんだ、そんなこと分からんのか、とオジサンは言っているのだな。
で、そんなある種の闇注文を知らない店員の男の子は、ビビっているのだ。

こんなとこで、そんなにエラソーにしなくても。
と、横のオジサンを盗み見る。
ビールのあと日本酒になって、牛タンシチューのあと、牛タン焼きが並んでいる。
オジサンは、よくいるオジサンだ。
でも、このオジサンにも若い日はあった。
その姿を想像してみる。

あなたにもぺエペエな若僧だった日、あるでしょ。
お金もなくて痩せてて、獣みたいな目をしてた日、あるでしょ。

「ヒエックション」
オジサンがくしゃみをした。
「失礼」

この「失礼」の言い方がけっこう可愛かった。
エラソーなオジサンだったが、ちょっと好感。
まあ、人には人の歴史あり。
でもねオジサン、エラソーはだめよ。
ほんとにエライ人は、こんなとこで威張らないよ。

そう心でつぶやきながら、お勘定。
ああ、うまかった。
外食はこれだから楽しい。

私、一人外食、けっこう好きです。