母親を歯医者さんに連れていく。
80代前半まで、自転車で途中駅まで行き、そこから一駅電車で通っていた、そのことがもう奇跡のようだ。

それほど、体力気力のある人だったのだなあ。
その母親はもう、タクシーに乗り込むのもやっとで、ちょっとでも手を放したら、エレベーターや床の段差で転んでしまいそう。

父親のホーム以外の外出は久しぶりで、行く前から母親の緊張が伝わる。
大丈夫大丈夫と励まし、歯医者さんのドアを開けると。
長年のお付き合いの先生が、待ち構えていてくださる。
十数年ぶりの再会。

母親は総入れ歯だ。
このお医者さんのおかげで、ストレスもなく、食生活をつづけられていたが、やはり歯茎の衰えなど経年変化は避けられない。
ずっとガマンをしていたのだろうが、その調整をしてもらうためにやってきた。

本来なら、また新しいものを作るという選択もあるが、もうそれはできない。
できることが少なくなってくるのは、仕方ない。
その中で、最善を尽くすしかない。

帰ってくると、母親が元気になっている。
やはり、外に出ることは人を活性化する。
こちらは、夜ご飯の片付けあたりで、アタマがモウロウとしてきたが、母親は生き生きしている。

親孝行、しよ。
できる限り、しよ。
そのカラダがあったかいうちに、できる限りのこと、しよ。

と、ココロ密かに誓うムスメでありました。