ケガのこともあって、ここしばらく、乗り換えの多い電車移動をしていなかった。
それが昨日。
一か月ぶりに歯科医院へ。

思うように足が進まない。
もともと歩くのは得意で、好きだった。
そこでの心拍増加が、歌うための心肺機能に役立っている気がしていた。
事実、息を一瞬で多く吸い吐くのは、歌うときの助けになる。

ところが。
私はこの夏、よれよれになっていたのだった。
小さな骨折から、若い人の半分といわれた骨量宣告。
なんだか一気に、がっくりしてしまった。
がっくりしながら、ゆっくり歩くしかなかった。

がっくりしたのは、自分のことだけではなかった。
この夏、知人が相次いで向う側に逝ってしまった。

お一人は。何回かご一緒したことのあるピアニスト。
トーストしたような日焼けに白い歯の、美しい人だった。
最後にお目にかかったのは、コロナ前。
若い歌い手さんの伴奏をされていて、その素晴らしい演奏に終演後、ちょこっとご挨拶した。
「変わらず素晴らしいピアノですね」というようなことを言ったと思う。
それに対して彼が「そうでないとやっていらません」というようなことを自負の笑顔で返した。
この人は、以前よりもっと高い断崖を背にしているのだなあと思った。
またぜひご一緒しましょう。その約束は果たされなかった。


そして昨日。
久野綾希子さんの訃報を聞いた。
この春、山崎ハコさんの復活ライブでお会いしたばかりだった。
帽子とマスクで客席に埋もれるように座っていらしたので、話しかけるのを一瞬ためらった。
まさかご病気だったとは。

その前に久野さんの素晴らしい舞台も拝見していた。
その力強い歌とお芝居に、ご病気のことなど想像もできなかった。
何回もご一緒して、楽屋もご一緒。
その時の思い出は尽きない。

どうしてこの夏は、別れが多いのだろう。
夏の熱と胸の痛みが混じる。
ひりひりと悲しい。
ひりひりと痛い。

悼みの夏。