同じ東京でも、西と東はけっこうな距離がある。
その中でも葛飾区は、西に住む者には、ちょっと行ってこようというには決断がいる。

葛飾といえば柴又。
もう若い人には、通じにくくなってしまったが、柴又といえば寅さん。
京成線に乗らねば行けないが、その京成線のある駅が遠い。
ずいぶん前に一回だけ行った柴又に、本当はたびたび行って見たいと思うものの、こちらもどんどん足腰が重くなって、ままならぬ。

で。昨日。
柴又ではないが、同じ沿線の青砥駅近くにある「かつしかシンフォニーヒルズ」へ。
ここはクラシックホールのモーツァルトホールもあるので、表にその銅像が建っている。
モーツァルトの目の前は小さい道路で、向かいにラーメン屋さんや炭火焼お弁当屋さんがある。
他のクラシックホールにはない生活感があって、モーツァルトもそれはそれで喜んでいるような気もする。


歌手協会60周年の祭典。
今回もお招きいただき一曲唄う。
コロナ禍に入ってから、出演者全員で舞台に立つことはなくなり、自分の出番を終えると、そそくさと帰る。
楽屋が人生交差点のようになっている。

以前は全員が控えている舞台袖が、その大きな交差点だった。
こまどり姉妹さんが、手の平を広げ「太陽に20分当ててると健康にいいのよ」と教えてくださったこともある。
血色の良い温かく厚いその手の平に、凄味さえ感じた。

弘田三枝子さんが、黒いベールとレースの手袋越しに、それこそ繊細な刺繍のようなほほ笑みを返されたこともある。
どれももう遠い出来事になった。

コロナは、いろいろなことやモノを変えてしまった。
でも、だんだんと戻ってきつつあるお客さまの姿に、私たちは励まされる。


そうそう。
寅さんの主題歌を、ライブで唄ったこともあった。
全編セリフ入りで。
あれは楽しかったなあ。

「矢切の渡し」も好きなんだなあ。
これも、ずいぶん昔に唄ったなあ。
いい歌だなあ。

ああ、どれもこれも遠い。
葛飾が遠い。
いや、なにくそ。
また団子食べに行くぞ。
草団子のはしご、するぞ。
時代に、歳に、負けてたまるか。