音楽スタジオ帰り。
路地の向かいがバラだらけだ。
バラというよりまさに薔薇。

そのお宅の敷地いっぱい、駐車場あたりも、空地に見えるあたりも、薔薇だらけ。
赤やピンクや白や、薔薇が勝手に咲いてしまった感で、こぼれるような有り様にくらくらする。

花の奥から、この世の人ではないような生き物が姿を現す気がする。
そんな物語をコドモの頃読んだ。
あれは「美女と野獣」だったか。

薔薇は咲かなーいー、この道にはー。
って歌もあったぞ。
大好きなシャンソン歌手高野圭吾さんの歌だったな。

そのメロディをアタマの中で回しながら歩いていると。
そのお宅のオバサン(この言葉以外に、何かあればよいのだが、残念ながら見つからない)が、ざわんと無造作に薔薇を切っては、バケツに入れている。
薔薇越しに目があったので「見事ですね」と言うと。

そのオバサン、いや、その女性が「持ってく?」
問答無用で近づいてくる。
「ええっ、そんな」と、あわてる間もなく。
一つかみにした赤とピンクの薔薇の雨粒を振り落とし渡そうとする。
野性味は花だけではなかった。
「そうだ、棘もとろうね、痛いもんね」

女性は、ずずずとハサミを使って棘をそぎ落としていく。
慣れた手つきだ。
こうして、一つかみのデカい薔薇たちを手に帰ることになった。
ずんとした重み。
もうこれじゃどこにも寄れないなあ。


花屋さんの花に慣れてしまうと、野生の花に驚く。
以前も、道端に咲いた外来種のケシのような花を取ってきたことがあって。
その色合いの美しさに三輪ほど。
それが、モンスターのようだった。
翌朝には、殻を破って、ドドンと咲いて、そしてドドンと散った。
コワかった。すごくコワかった。
二度と、野の花は家にいれないと決めた。


それが今度は薔薇だ。
その薔薇たちは、確かに花屋の薔薇とは違う。
ばらばらと花びらを散らすが、したたかだ。
ほうら、散ったふりしてるけどさ、あたしらどっこいまだまだいけるわよ的な、場数を踏んだ年増女感がある。

こうして野生の花は、それから私の部屋を支配している。
私は、この薔薇のシモベになって。
見事でございますねえ。
と、誉めている。