親が死ぬことを想像する。
それはそれで、おそらく途方もなく悲しい。
でも、パートナーが死ぬことを想像すると。
その悲しみはもう絶望に近い。

山崎ハコさんは、二年前にパートナーの安田裕美さんを失くした。
安田さんは、名ギタリストで、私も何回かレコーディングでお世話になった。
陽水さんを支えたメンバーとしても知られるレジェンドだ。

その安田さんとハコさんは、いつも並んでステージに立った。
そういうコンサートを見てきた。
二人でギターをかき鳴らす。
ハコさんが、ときどき隣の安田さんを見る。
安田さんは、ただそこにいて一言もしゃべらず、ただハコさんをサポートする。

ハコさんの安田さんへの愛は、至高で透明のように思えた。
だから、安田さんが亡くなったと聞いたとき、ハコさんのことがただただ心配だった。
ハコさんが、これからどうなるのか。
ハコさんと、ハコさんの音楽がどうなるのか。

昨日、三年ぶりのバースデーコンサートと称してコンサートが開かれた。
ずっとハコさんを愛してきたファンはもちろん、私のようにもはや親戚のような気持ちの関係者も多く、二階席は、そんな人たちだらけだった。

そこにもういない安田さんのこと、振り切るように前を向いて唄うハコさんに、みんながそれぞれ静かに涙をぬぐった。
静かに静かに、そっと涙をぬぐった。

人生を、しかも音楽を分かち合った二人。
舞台にハコさん一人だけ。
でも、ハコさんは、自分を奮い立たせていた。
私たちも、私たちを奮い立たせた。
負けるもんか。

コロナそして戦争という、この時代。
負けるもんか。
それぞれが、それぞれを奮い立たせた。
音楽や演劇という、不要不急ともされたジャンルで生きてきた私たち。
久しぶりに会う人も多く、みんながマスク越しで、はじめは誰が誰かわからない。
名乗り合って、ああ、まあと思わず手を取る。

ハコちゃんに元気もらったね。
みんな口にしながら帰る。


ハコちゃんは、きっと、ずっと唄う。
私も、またずっと唄う。
いつものように抱きしめ合えないけど、ハコちゃん、ありがとう。
生きよう、ただ生きよう。
いっしょに、生きよう。