なんだかんだいっても、脚には自信があった。
脚力の自信だ。
ぱたぱたとけっこうな距離を歩くし、電車で立っていることも苦ではなかった。

それが。
昨日あたりは、もうへろへろ。
それまでに、掃除洗濯買い物、階段の上り下りや、庭の水やりや掃き掃除など、してはいた。
それでも、こんなにへろへろになるとは。

やはり急に暑くなったせいもあるだろうが、一年とはいえない衰えもありそうでがっくり。
ガックリしてるまもなく駅に急ぎ、歯科病院に向かう。


このところの陽気の良さか、電車はけっこうに混んでいる。
子供連れも多いし、ベビーカーも多い。

まるで少年のような首筋をした若いお父さんが、赤ちゃんを抱いている。
そばにこれも少女のようなお母さんがベビーカーを支える。
赤ちゃんは、もう神々しいほどの、それこそ「玉の肌」。
ぴっとりと周りを見て、それからそばに立つ私を見た。

私は赤ちゃんと出会うと、いつもココロの中で話しかける。
マスク越しではあるけど笑いかける。
「ようこそ」と、この世に迎える気持ちで微笑みかける。

すると、たいていの赤ちゃんは、そんな私を見て、それからふうと笑う。
私もうれしくてまた笑う。

こんなやりとりは、とても気持ちを明るくしてくれる。
「ようこそ」とこの世界に迎える立場のうれしさと、責任のようなものを思い出させてくれる。

あなたは未来ですね、これから百年後にも、この世界を生きるのですから。
そのために、少しでもよりよい世界にして私はこの世を去りたいのです。
でも、でも。
でも、今、戦争は起きているし、あなたのような命を守れないパパやママもたくさんいます。
でも、あなたはやっぱり未来ですね。
だって、こんなに美しく光を放っているのですから。


「ふふふ、(あなたを)じっと見てますね」と、若いお母さんがうれしそうに言う。
「はい、ようこそ」と、答える。

若いお父さんとお母さんは、隣駅で降りて行った。
重かった脚は、やっぱりまだ重いままだったけど、ココロは少し軽くなった。