先だって。
父親のホームに母親を連れて行って。
二つの椅子をぴったり横につけて座らせると、二人はすぐに手を繋いだ。
離れるまでの時間そうしていて、話していることは、とりとめなく、ただ二人の時間が過ぎていった。

その後、娘は、二人を離していることの責任が自分にあるように思えてきて、すっかり気持ちが萎えた。
そんなことないと、もちろん誰もが言うだろうが、理屈じゃなく、苦しくてどうにもならない。


そして昨日。
一人でホームを訪ねた。
父親が私を見るなり「ああ、もう帰ろうかと思うんだ」という。
混乱の後の脱力のような顔をしている。
「ムスメが神様に見える」とまでいうので、よくよく話を聞いてみると。
どうやら、自分の部屋を間違え、他の人の部屋を開けてしまったらしい。
そして、そこのベッドで寝ている男性がいて、文句を言われたらしい。
それは当然のことで、そのかたには、本当に申し訳ない。

「ちゃんと確認してみましょうね」と、職員のかたが、謝りながら、父親を連れていく。
「ああ、ボケてきちゃったなあ」と、父親ががっくり肩を落とす。
自分で自分をボケてきたというのが、愛しく哀れでしかたない。

ここにはちゃんと父さんの居場所があるんだよと安心させるが、このあたりで、外出許可を取ることにした。
もう寒くはないし、自宅の居間で、二人に午後の数時間を一緒にいさせてあげたい。
それがうまくいくかどうかはわからないが、後悔はしてみてわかることだ。

「父さん、日曜日、迎えに来るよ」というが、そのこともよくよくはわかっていないようだ。
暗中模索。
すべてそう。
私には初めてのことばかり。
94才の老人二人は、いつでも私には初めてのことばかり。
子育てをしたことのない私は、いのちの授業を、今、きちんと学んでいるのだと思うことにした。
最終章で、気の重いことも多いけど、逃げずにきちんと学ぶ。
あれやこれやとアタマを抱えながら学ぶ。


で。
これから矯正歯科へ。
アゴの具合がもう少しよくならないと、唄いづらい。
自分のことも、まったく暗中模索状態であります。