レコーディングスタジオは、好きな場所の一つだ。
あそこにもここにもあった大きなスタジオには、無くなったものもある。
一等地にあり、しかも面積が広くなければならない。
この維持費が相当なものだろうとは、容易に想像がつく。

私の所属するコロムビアには、昔、社内に大きなスタジオがたくさんあったらしい。
美空ひばりさんを初め、日本の歌謡界を率いた人たちが、大きなオーケストラと一緒に、録音をする。
それが自社でできたのだから、幸せな時代だった。


今は、コンピューター一つで、音の出るモノの実体が見えぬまま、楽曲が出来上がっていく。
そういう作業も、まさに「時代」なんだろうが、私などは、そういう「時代」にはなじめない。

昨日は、きちんとしたスタジオで、きちんと楽器が入って、きちんとエンジニアがいて、きちんと助手もいて、そして、もちろんきちんとミュージシャンがいて。
そうして歌い手もきちんと自分の声で唄って。


以前は、いつでもどこのスタジオにも人が出入りしていたが、音楽産業の変化と、最近はコロナもあって、いっときはほんとに閑散としていた。
昨日あたりは、それでも、なんやかやと人が行き交う。


昨日、私は音楽に救われていった。
音楽を共にする人たちに慰められていった。
あここれとココロの中にうず高く積もっていく不安が、積もり続けていく不安が、だんだんに溶けていくのを感じた。

それは音楽のことだけじゃなく、世界のこと戦争のこと未来のこと。
何一つ見えない。
何一つわからない。
そんな中で歌を唄う。
録音をする。


一つ一つ人力で音を奏で集め探す作業に安心した。
そして、大先輩のSさんとご一緒したことで、安心は増した。
幼い頃戦争を経験し、今も、エレガントに自由に唄われるSさんは、私の希望の星、北極星だ。
歌い手がどうあるべきか、を測れる歌い手の北極星。
自分の立ち位置を確認できる、間違ってはいないかを確認できる北極星。

もう少ししたら、どのようなものになるのか、お知らせ出来ると思います。
尊敬してやまない大先輩との別れの歌を、皆さまに、早くお届けしたいと思っています。