朝から泣く。驚いて泣く。
とうとうロシアがウクライナに侵攻するらしい。

ウクライナの首都キエフのビーちゃん(前にも書いたが、ロケの時に通訳してくれた気のいい若者)に、先だって声のメッセージを送った。
「ビーちゃん大丈夫、大丈夫?みんなこっちで心配してるよ」

スタッフツヅラが、ビーちゃんから返信きましたあ、と開けてくれたスマホから、ビーちゃんの声が聴こえた。
「あははは、大丈夫、大丈夫。心配してくれてありがとうございます。でも、僕は前線あたりにも行きました。まだまだ大丈夫です。ですから安心してください。はははは」

この「あははは」がとっても深くていい声だった。
厚い胸板を持つ東欧の労働者のような、良い声だった。

それから何日経つんだろう。
ぜんぜん大丈夫じゃないじゃん。
ビーちゃんは、デカいけど、人と殺し合ったり武器を持ったりは似合わないよ。
だって気が優しすぎるもん。

みんなそうなんだ。
ほとんどの人はみんな、気が優しくて、生まれ育った国や土地で、仲良く暮らしたいんだ。
誰も、他の人の土地を、血を流して自分のものになんか、したりされたくなんかないんだ。

でも、でも。
歴史は、戦争の歴史は、人間はそうではないと証明している。
どこかの国がどこかの国に、なにかの理由で侵略する。
そこで多くの人々が、おそらくなんでだかわからんうちに死んでいく。
でも、どんなりっぱな大義だって、一人一人が死んでいく理由になんかならない。

人は病気とか事故とか、年とって老衰とかで死んでいくべきものだ。
そういう個人的なことで生きて死んでいくべきものだ。
独裁者のために生きたり死んだりなんて、そんなのイヤだ。
イヤだよ、ビーちゃん。

ウクライナの国旗は、青い大空と、大地に黄色く実った麦、この二色です。
ほんとだね、ほんとに綺麗な国旗だね。
といいながら、食したスープの何と滋味溢れた旨さだったことか。

「血を流すなら あなたの血を 
 猫かぶりの えらいかたがた」

シャンソンの「脱走兵」の歌詞だ。
いつもいつの時代も、血を流すのはエライ方々なんかじゃないんだ。