一日の気分。
これは、年齢、性別とかそんなもんを越えて、みんなそれぞれ違うだろうとは思う。
それでも、やはり父親のような老人を見ると、なるほどなあと考える。

面会に行くのは、たいてい午後二時頃だが、昨日はもっと遅くに変更。
オミクロンがあるので、今は私一人、自転車で行く。
ちょうど、ホームスタッフのかたから「パッド」を追加してほしいとの連絡もあって、でも、はてさてどんなパッドだったかと、まず確認に行く。

父にも母にも、いろんなパッドがあるし、父にはリハパンもあるし、それを買うのが、なんたってこの私。
この頃は、あれどここれなに、となんだって忘れやすくなっている前期高齢者。
ホームで購入してもらってもいいのだけど、すぐ近くにドラッグストアもあるし、親のことは「把握」しておきたい気持ちがある。
そうやってずっと関わっておきたい気がする。


そうして面会した父親は、前回とはまた違う。
哀れな感じになっている。
兄弟はみんなどうしているかとそればかり聞く。
「みんな死んじゃったよ」と答える。
父さんは、こんなに元気で長生きしててすごいね、とほめる。
でも、父さんは兄弟の下から二番目だから、みんな死んじゃったよ。

そうかあ、といったんは頷くが、すぐに兄弟の誰々はどうしてるかと聞く。
そうして、それぞれの兄弟姉妹の名前を挙げる。
すごい数だ。

昔は、どこの家もこんな大家族だったはず。
総勢10人など当り前。
そして兄弟姉妹の二人くらいが小さい頃に亡くなる。
父の家も母の家も、そうだった。
生き残った人たちが、それからを生き抜いた。
そのうちの一人くらいが戦争で死に、またそれからを生き抜く。


「そうかあ、もう会えないのかあ」と、父親が言う。
「ううん、みんなあっちで父さん待ってるよ」
「あっちってどこだ」
「天国だよ」

そうかあ、と父親はわかったようなわからないような顔をする。
もう時間だからと、立ちがらせるが、ふらついている。
そろそろ夕方だ。
この時間帯は、そういえば、家にいるときも、あっちの人のことばかり尋ねていたなあ。
夕方は、そんな時間なのかもしれない。

またね、と手を振る。
エレベーターで手を振り返す、その手がひらひらしている。
どこかから迷い込んだ葉っぱのようだ。