父親に面会に行く。
時間制限はあるが、こうしてまだ会える機会がある。

面会用の部屋で待つと、いつものように父親が現れる。
よお、と片手を挙げる。それもいつもと同じ。
「母さんはいないのか」というのも、同じ。
「寒いからね、風邪ひいちゃうからね。またあったかくなったら来るよ」というのも、同じ。
父の目から、ぽたりと涙が出てくるのも同じだし、「父さん、すっかり涙もろくなっちゃったね」とティッシュを差し出すのも同じ。


父親の着ているチェックのシャツがよれよれになっている。
ここでは、水洗いとドライを区別して洗濯屋さんに出していると聞いていた。
なので、基本、水洗いのできるものしか持っていっていない。
それに、この冬物シャツは、これまで型崩れすることもなかった。洗って干せばそのまま。
家庭で洗っても大丈夫なのになんで。

それと、前回から気になっていたことの、もうひとつ。ヒゲ。
刃物はダメというので、電気ひげそりを持って行ってある。
なのに、ヒゲがちょぼちょぼしている。
ようく見ると、前だけは剃ってあるけど、あごの下から首にかけての見えない部分に、ちょぼちょぼしょぼしょぼ。

ホームの人にきちんと言う。
「老人のよれよれとかしょぼしょぼは、ホントに哀しく見えちゃうので」
だから、きちんと対処してほしいと。


面会する私など、そりゃあいつもヒドい格好だ。
でも、いいのだ、私はまだ外で自由に生きられる。
だけど、父親はそうではない。
自分で自分を管理できない、選べない。
だからこそ、哀れな老人になどさせてたまるか。

もう子供の意地だ
(女の意地、って歌があったけど)
子供の私が守らんでどうする。
(守ってあげたい、って歌もあったけど)


意地やら守るやら。
ほんと、気が休まりませんわ。