父親が施設に入って。
母親との時間が長くなった。

これまでは、二人いるので、家事をすませると「じゃあね!」と手を振って帰れたものが、そうはいかない。
母一人で入浴させるのも心配で、本人も不安らしいので、そんなこんなで夕食を共にすることも増えた。

よくもまあ、こんなににくったらしいことばかり言うなあと、アタマに血が上ることも多かったのに、最近はしおらしく見えてきた。
弱味を見せられると、人は弱い。子は弱い。
なんとか支えなくちゃと思う。


ただ、困るのはテレビ。
一日中、テレビがついている。
もっと困るのは、それがワイドショーのようなものなこと。
見たくも聞きたくもないコメンテーターの人たちの声が、部屋に満ちる。
なので、この頃は、なるべく外に出ることにした。
買い物ついでの散歩や、植木鉢の水やりや掃き掃除や。


北風は辛いけど、仰ぎ見ると冬の青空は深い。
施設の父親と、部屋の母親と。
その両方の明日を思う。
明日のことなど思ってみてもしかたないけど、明日の春を思う。

そうさ、春はもうすぐさ。
指折り数えるように春を待つ気持ちは、歳を重ねてようやくわかる気がする。


父親の施設も面会制限をはじめた。
部屋ではなく、決まった場所で15分。
そうはいっても、15分経っても誰も催促はしない。
「なんで来ないんだ」と母親のことを尋ねる父親の腕をさすりながら、「寒いからね、母さん風邪引いちゃうと可哀想でしょ」
「それはそうだ」


春。早く来ないかなあ。