高校の生徒さんの前で唄う。
なかなかスリリングな仕事だ。

水戸の葵陵(きりょう)高校。
まさか、自分が両親の故郷で、それも未来ある高校生の前で唄うことがあろうとは思ってもいなかった。

おそらく高校の体育館とか講堂が会場だろう、などと思っていたら、県民ホール。
今はその名称も変わってはいるが、これまで何回かうかがったことのある場所。


世代のまったく違う人を前に唄うのは、きっともっと前だったら、けっこうビビッただろうけど。
今は、もう生きてるだけでめっけもんな感じがしてきているし、それが年の功でもあるのだろう、全然平気。

このコンサートは授業の一環ということで、芸術鑑賞会だ。
芸術とは畏れ多く、それでも、伝えたいことは伝えたい。
伝えたいことは、ただ一つ。
色々な人との壁を越え、相手の心を想像すること。
それが愛というものだろうこと。
愛がないと平和もないし、歌なんか歌えない。
私の仕事は、平和がないと成り立たない。
(ウィルスがはびこっても成り立たないけど)


行儀の良い生徒さんたちだけど、その緊張感がほどけたのが、私への質問コーナー。
クミコさんに聞きたいことありますか、という問いに、若者が手を上げる。

「おすすめの歌はなんですか」
「好きな食べ物はなんですか」

本当は、事前に教育的質問の打ち合わせがあったのが、どっかにすっとんでいる。
これぞナマモノ。
もうおかしくてしかたない。


私の歌がどれだけ届いたか、そんなことわからない。
ただただツマラナイと思った子供だっていただろうし、知らない扉に興味を持った子供もいたかもしれない。
そんなこと、どうでもいい。

ただ一言付け加えた。
これからみんなが大人になって、もし私が歌っていたら、楽屋に訪ねてきてね。

学生服の子供たちが大人になる日なんてあっという間だ。
学生服がスーツに変わって、頼もしい青年になる。
もうその姿が見える。

子供は未来だ。

その時まで、唄っていられるかなあ。

父と母が育ち出会った街は、冷たい雨だった。
二人がボートを浮かべた千波湖も、見ることができなかった。

またいずれ。
ここに来ます。